「日経広研プレミアム講座」第2回開催

2019-08-01

会報誌-広研レポート

広告界で関心を集める多様なテーマを設定

活動報告


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日経広告研究所は7月、第2回の「日経広研プレミアム講座」を開催した。広告界を取り巻く環境を俯瞰できるように、興味深く、タイムリーで、多様なテーマを選び、第一線で活躍する専門家や業界のリーダーに講師を依頼した。5日間で15の講座を開催した。全15講座は大幅な加筆修正後に編集され、12月に単行本『広告ってすごい!がわかる人気講座vol.2』として発行を予定している。


 


(事務局長 宮尾雄貴)



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熱心に耳を傾ける聴講者


コミュニケーションの新たな視点を提示

初日の7月4日、第1講はHASHI inc. クリエイティブディレクターの橋田和明氏が、統合コミュニケーションに大切な考え方としてPR視点のクリエイティブ・ディレクションを紹介した。“強いコアアイデアを中心に様々なリアクションを想定した多面体発想によるPR+AD思考の重要性”を解説し、受け手の参加意識や想像力を引き出すための“不完全性”、生活者を企業の“仲間”としてコミュニケーションする、といった新たな視点を提示した。


第2講は川崎重工業部長の鳥居敬氏が、BtoB企業として顧客・取引先などアウターコミュニケーションとともに、インナーコミュニケーションを重視している同社の現状を解説。自分たちが“カワる”ことで社会が“カワる”、よりよい未来に向けて一歩“サキへ”進むことといったミッションステートメントや、ブランドメッセージに込めている思いを語った。


第3講は味の素広告部長兼オリンピック・パラリンピック推進室長の片上崇氏が、同社のスポーツ支援活動と企業コミュニケーションについて紹介した。同社ではグループの共通価値=ASV(Ajinomoto Group Shared Value)を実現するために、コーポレートスローガン“ Eat Well, Live Well”の下、スポーツ支援を通じたコミュニケーションを展開している。トップアスリートの栄養補給に貢献する支援活動と“勝ち飯”キャンペーンについて、豊富な実例を通して説明した。


7月9日は広告メディアの現状や課題をテーマにした3講座。まず、テレビ東京ホールディングス技術IT統括局次長の蜷川新治郎氏が、テレビメディアの現状とこれからについて解説した。若年層のテレビ離れや操作性の課題など経営を取り巻く環境変化の中で、テレビ東京が取り組んでいるライツビジネス、配信事業をハブにして、テレビの強みであるリーチの維持・拡大とロイヤルティ化を両立させるといった、今後の戦略をわかりやすく説明した。


次いで日経広告研究所研究部長の坂井直樹が「新聞広告でブランドを創る」と題して、新聞広告の今日的な有用性を解説した。新聞メディアの持つ議題設定機能により、企業の経営理念や社会課題への取り組みを核にしたコミュニケーションが、ブランド構築に効果的であることを、広告事例などをもとに提示した。


続いてジェイアール東日本企画交通媒体本部デジタルサイネージ推進センター長の山本孝氏が、成長著しいデジタルサイネージなどOOHメディアの現状を豊富なデータと事例で紹介した。反復接触性やリーセンシー効果など従来からの強みに加えて、デジタル化に伴い、時間・エリアによる表現の可変性やスマホ連携などのインタラクティブ性が強化されている様子を伝えた。


新進気鋭のクリエイターが登壇

7月11日の第1講はニールセンデジタル セールス&アナリティクスの高木史朗氏が、デジタル広告の現状とリスク、その回避のためのポイントなどを解説した。堅調なデジタル広告市場だが、ブランドセーフティなどデジタル固有の問題点や過剰フリークエンシーによる消費者から嫌われるリスクが潜んでいる現状を解説。そうしたコミュニケーションリスク回避のためにメディアやターゲット選定などプランニングにおいて注意する点を、データを交えて指摘した。


第2講は2017年クリエイター・オブ・ザ・イヤー受賞者の電通クリエイティブ・ディレクターの佐藤雄介が、広告でしか表現できないエンターテインメント性を追求し、各メディアやSNSなどで多面的に拡散させるためのクリエティブについて、実例を交えて説明した。日清食品カップヌードル「アオハルかよ。」キャンペーンほか、注目を集めた作品が紹介された。


続いては、今、動画業界をけん引しているワンメディア代表取締役の明石ガクト氏が、「個人動画の流通革命について」講演した。マスから個への変化とともに世代間の情報格差が生じるスマートフォン社会では、時間に対する情報濃度“ Information Per Time”という考えが重要であると説いた。また、動画に求められる3つのS(Smartphone、Speed、Silence)を中心に、情報濃度を高めた“動画”と、美しいビジュアルを流すだけの“映像”の違いを分かりやすく解説した。


4日目にあたる7月17日はブランドについての講座が並んだ。まず、グロービス経営大学院教授の加治慶光氏が、マーケティング3.0時代の新しいブランディングのあり方について講演した。ソートリーダーシップ(Thought Leadership)、PESO(Paid、Earned、Shared、Owned Media)、Fファクター(Friends、Families、Fans、Followers)など最先端のキーワードとともに、企業に求められるSDGs推進の必要性について最新事例を交えて説いた。


2講目はTBWA∖HAKUHODOシニアプランニング・ディレクターの天田卓良氏による「デジタルでブランドはつくれるか?」と題した講演。これまでのブランド論の変遷の中でも、“らしさ”や“体験”の追求といった本質は変わらないが、デジタルデータ全盛時代に最適化を求めて陥りやすいいくつかの“罠”の存在を指摘した。そのうえで、ブランド強化のために必要な、動詞のブランディングやカルチャーとの共存などの“技”について言及した。


3講目はアフラック生命保険執行役員の澤村環氏が、同社のブランドづくりの進化を語った。保険という“無形の”商品についてブランド戦略の特異性や、1970年の日本進出時から他社に先駆けてがん保険を販売してきた同社の足跡から、これまでのブランド戦略を解説。また、長寿化とともに高まる「生きるリスク」への関心を背景として、ライフステージに合わせて最適な保険を提供し続ける“アフラック式”サポートによって、生涯パートナーとしての企業ブランド構築を目指す、同社の戦略を紹介した。


マーケティング機能強化に向けた助言で締めくくる

最終日の7月19日はまず、リクルート ネットマーケティング推進室シニアマネージャーの金井統氏が、同社の広告への取り組みと組織について解説した。企業活力を生み続ける同社グループ内では、顧客層が異なるグループ会社同士が競うように専門性を深化させ、それらに横断的に関わる組織としてネットマーケティング室を置くことで、全体での知見の共有により最適なマーケティングを実現している。ブランドごとの事例を基に分かりやすく解説した。


続いてCyberZマネージャーの玉川奨氏が、スマートフォン広告の現状とAIの活用を含めたこれからについて述べた。アプリ広告におけるクリック・インストール・課金などデジタルデータによる“広告効果の計測”、計測データのクロスデバイス分析やKPIの予測などの“分析”、それらデータを生かして最適化するための“利活用”の各ステージで、どのような取り組みが行われているのかをAI導入の事例などを含めた最新技術動向として解説した。


最後の講座は吉野家CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)の田中安人氏が、マーケティングが機能する組織について、自身の豊富な経験をもとに語った。帝京大学ラグビー部出身の同氏は、史上初の9連覇を成し遂げたのは、個々の才能に依存するのではなく目標に向かって人を動かすための活力ある組織づくり、フォーメーション化によるものであり、あらゆるビジネス組織にも援用できると、事例を交えて紹介。“共創”“社会関係資本”“ Core&More”“ 20世紀→21世紀的思考”などの様々なキーワードを通じて、組織づくりの核心を生きた哲学として伝えた。



講演するワンメディア 明石ガクト氏


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