調査・研究

2021年度広告費は10.4%増【詳細版は会員専用ページにて公開中】

2021-07-19 調査 景気回復を映し10.4%増 インターネットけん引

 日経広告研究所は2021年度の広告費予測を見直し、前年度に比べて10.4%増えると発表した。21年2月時点の予測値5.3%増から上方修正した。新型コロナウイルス感染の先行きは不透明だが、国内景気の好転に伴って企業活動が活発となり、前年度に大きく落ち込んだ広告需要の反動増が見込まれる。インターネット広告が一段と成長を高め、広告費全体をけん引する。



実質GDPは21年度内に「コロナ前」上回る


 同研究所は毎年2月に翌年度の広告費予測をまとめ、7月に見直している。経済産業省が作成する「特定サービス産業動態統計調査」の広告業売上高を広告費のデータとして使い、四半期ベースで広告費を予測している。今回は21年4-6月期~22年1-3月期を予測期間とした。


 東京都などでは21年度に入ってから、4月に続いて7月に通算4回目となる緊急事態宣言が発令され、新型コロナの感染拡大は依然、予断を許さない状況となっている。飲食業や宿泊業、レジャー施設、航空、鉄道といった業種は、大幅な売り上げ減少に見舞われており、回復の糸口がつかめない状態だ。


 しかし、経済全体でみると、景気回復が続いている。四半期のデータを年率換算した実質GDP(国内総生産)の金額をみると、コロナ前のピークだった19年7~9月期を21年度内に上回る公算が大きい。20年夏ごろは、コロナ前を上回るのは23年か24年という見方が多かった。コロナ下でも製造業を中心に企業活動は活発化しており、企業収益は改善傾向をたどっている。


 こうした景気状況を映し、広告費も回復している。1回目の緊急事態宣言が発令された20年4~6月は23.2%減、7~9月期は19.0%減と鋭角的に落ち込んだ。21年度前半の広告費は、この急減した水準との比較となるため、反動増だけでも高い伸びが期待できる。10~12月期、22年1~3月期は伸びが鈍化するものの、プラス成長を維持する。


 20年度の広告費は16.1%の減少だった。リーマン・ショック後の09年度の13.1%減よりも悪化し、特定サービス産業動態統計で過去最大の減少率を記録した。これに対し、21年度の10.4%の伸びは、バブル期だった1989年度の13.2%に次いで過去2番目の高さとなる。ただ、2019年度と比べると、金額では7.4%低い水準にとどまる。


インターネット広告は21.1%増に拡大


 媒体別にみると、インターネット広告は20年度の3.6%増から21.1%増に拡大する。電子商取引やゲームなど、巣ごもり需要をとらえて成長している業態は、インターネット広告と親和性が高く、新型コロナ下でも積極的に広告を出稿している。感染拡大が一段落しても、この傾向は続くという見方は多い。


 経産省は毎年3月、1月分の確報発表の際に、特定サービス産業動態統計調査の前年データを補正し、過去に遡って修正している。通常は前年1~12月確報以後に広告会社から寄せられた訂正報告などを反映する程度にとどまり、あまり大きな変更はない。しかし、21年は新しい経済センサス活動調査を基にし、「売り上げ上位70%に属する広告会社の顔ぶれが変わった」(経産省)ため、過去にさかのぼって数字もかさ上げされた。


 この結果、20年年間のインターネット広告は約2700億円増額され、伸び率は0.7%減と補正前よりも2.4㌽縮小した。調査対象の広告会社が変わったことが、インターネット広告の成長に弾みをつけている面もある。


 テレビ広告は9.8%増と20年度の12.6%減から回復する。前年度前半に落ち込んだスポット広告の需要が、反動により急増している。タイム広告も前年度と比べプラスを確保しているが、回復は遅れている。先行き不透明感のある中、企業の関心はスポット広告に向いているとの指摘がある。東京五輪が予定通り開催されることも伸びを支える。ただ、「広告制作費は世論を意識して、控えめにした」という声も聞かれる。22年2月の北京五輪も底上げ要因となる。


 統計補正によりインターネット広告が増額され、伸び率でもテレビ広告を上回る。予測通り推移すれば、21年度にインターネット広告がテレビ広告を金額で上回る可能性がある。電通の「日本の広告費」では、19年にインターネット広告費がテレビ広告費を上回っていた。




新聞広告は全国紙の回復が目を引く

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 新聞広告も20年度に17.9%落ち込んだ反動から、21年度は5.9%増える。特に全国紙の回復が目を引く。秋までに衆院選に伴う広告需要も期待される。ラジオ広告は20年度に14.2%減少したが、21年度は2.7%増と回復を見込む。


 雑誌広告は20年度の38.1%に続き、21年度も7.7%減が見込まれ、マスコミ四媒体の中で唯一、マイナスとなる。週刊誌と月刊誌の定期誌の販売低迷が響く。出版社が紙媒体からデジタル媒体へのシフトを進めていることも背景にある。


 交通広告は20年度に35.2%減と大幅に落ち込んだ。21年度は反動増が期待されるが、持ち直しの気配はなかなかみえない。コロナの影響で乗員人数が低迷し、広告の接触機会が減っているため。ただ、ワクチン接種率の上昇とともに広告需要も持ち直すとみて、21年度は1.5%増を見込む。


 折り込み・ダイレクトメールは20年4~6月期に51.6%減、7~9月期に26.6%減と大幅な落ち込みを記録した。21年度に入り、リバウンド傾向が鮮明となっている。21年度は12.6%増と高い伸びを見込む。折り込みは業績好調なスーパーなどの流通業が全体をけん引する。


 予測値は日経広告研究所と日本経済研究センターが共同で開発した「広研・センターモデル」を使って算出している。広告費は国内景気と相関すると仮定し、財務省発表の「法人企業統計」の経常利益と内閣府発表の名目国内総生産(GDP)の2つを説明変数に選び、このモデルに日経センターが予測する経常利益と名目GDPの伸び率を当てはめ、予測値を算出している。テレビ、新聞、雑誌、ラジオのマス4媒体や、交通、折り込み・ダイレクトメール、インターネットの媒体ごとの伸び率は広告費全体の動きから予測している。


 


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