調査・研究

2022年度の広告費予測/概要版(詳細版は会員専用ページで公開)

2022-07-26 調査・研究 インフレ響き1.1%増 インターネット2桁増 

日経広告研究所は2022年度の広告費が前年度に比べて1.1%増えるという予測をまとめた。2月時点の見通し(3.7%)から下方修正した。コロナ感染の収束時期は不透明で、世界的なインフレが企業収益を圧迫する懸念が広がり、企業の広告出稿に慎重さが出てきた。テレビ広告が減少に転じることが影響する。インターネット広告は2桁増を維持する。



インフレ響き1.1%増に インターネット2ケタ増                                         


日経広告研究所は2022年度の広告費が前年度に比べて1.1%増えるという予測をまとめた。今年2月時点の見通し3.7%増から下方修正した。世界的なインフレ傾向が企業収益を圧迫する懸念が広がり、企業の広告出稿姿勢に慎重さがでている。テレビ広告が減少に転じる。インターネット広告は2ケタの伸びを維持する。


22年度の日本経済は新型コロナウイルス禍からの回復過程にあるが、前回予測を発表して以降、ロシアによるウクライナ侵攻と、上海市の都市封鎖など中国のゼロコロナ政策の徹底という2つの大きな出来事に見舞われた。ウクライナ危機はエネルギーや食品価格の高騰を招き、米国などの中央銀行はインフレ基調を抑えるため、金利引き上げに動いている。中国のゼロコロナ政策はサプライチェーンの混乱に拍車をかけ、世界で企業の生産や輸出の動向に影を投げかけている。


エコノミストに景気見通しを聞く日本経済研究センターの「ESPフォーキャスト調査」によると、2月時点では22年度の実質国内総生産(GDP)の伸び率が3.03%増えると見込まれていた。しかし、7月時点では実質GDPの伸びは2.00%へと大きく下方修正された。こうした景気見通しの変化を映して、企業が広告費を抑える傾向が見え始めている。22年度の広告費の伸びは2月時点と比べて2.6%㌽低い1.1%に下方修正した。



タイム広告減り、テレビは1.5%減


媒体別にみると、2月時点で3.1%増えると見込んでいた22年度のテレビ広告は、1.5%減少すると予測した。11月にカタールでサッカーワールドカップ(W杯)が開かれるが、東京五輪・パラリンピックのあった21年度と比べると、番組中に流す「タイム広告」は減少する公算が大きい。放送局はその分、番組と番組の間に流す「スポット広告」の需要掘り起こしに力を入れている。しかし、スポット広告はもともと景気動向に左右されやすく、今のように企業収益が悪化するような状況では大きな伸びは期待しにくい。


インターネット広告は21年度上期に、巣ごもり需要をとらえて成長している電子商取引(EC)やゲーム企業などからの出稿が大幅に増え、34.6%という高成長を記録した。この期間との比較になるため、22年度に入ってからインターネット広告の伸びは鈍化している。ただ、動画広告をはじめデジタル媒体を積極的に活用しようという広告主の姿勢は変わらないとの見方が多く、下期の伸び率は高まる見通し。前回予測値14.7%を下回るものの、22年度は10%増と2ケタの伸びは維持する。


新聞広告は4.3%減少する。7月に参院選が行われたが、21年の衆院選のような広告需要の押し上げ効果はみられない。コロナの感染拡大に絡んで政府が行動制限をしなければ、19年に業種別売上高でトップだった交通・レジャーからの出稿増が期待できる。ラジオ広告は21年度に他媒体のようなコロナ禍の反動増がみられず、22年度はその分、伸びる余地があるともいえる。ラジオ広告が比較的強い外食・各種サービスなどのスポット広告の需要増を見越して、0.3%のプラス成長を見込む。


人流が回復、交通広告6.0%の伸び


雑誌広告は7.5%減が見込まれる。20年度に38.1%減、21年度に5.4%減と落ち込んだ後も、回復の兆しがなかなか見えない。出版科学研究所によると、21年の雑誌販売額は週刊誌と月刊誌の定期誌の販売低迷が響いて5.4%減少した。紙の雑誌の販売動向は22年も基調は変わらないとみられる。雑誌広告の減少は、出版各社が紙媒体からデジタル媒体へのシフトを進めていることも背景にある。


交通広告は6.0%増を見込む。前回予測の3.5%増を上方修正した。22年度に入ってからコロナ禍の行動制限が実施されていないため、人流が徐々に回復していることが支えている。とはいえ、JR東日本や東京メトロがダイヤ改正で減便を発表している上、テレワークの浸透といった事情もあり、大幅な伸びは期待しにくい状況だ。


22年度の折り込み・ダイレクトメールは前回予測の1.5%増から横ばいへと引き下げた。紙の価格上昇は折り込みのコスト増大につながり、枚数に影響する可能性がある。原料高に悩む食品会社が流通業への販売促進費を減らすと、ちらしの枚数減少につながる公算もある。一方、旅行や宿泊などサービス業のちらしが増えているのは下支え要因となる。


SP・PR・催事企画は21年度に27.3%伸び、インターネットを上回る伸びを記録した。22年度は4.8%と着実な増加を見込む。給付金の窓口業務などコロナ関連の官公庁需要はピークを超えた可能性があるが、民間向けのイベント、プロモーションの需要増が期待される。


予測値は日経広告研究所と日本経済研究センターが共同で開発した「広研・センターモデル」を使って算出している。広告費は国内景気と相関すると仮定し、財務省発表の「法人企業統計」の経常利益と内閣府発表の名目国内総生産(GDP)の2つを説明変数に選び、このモデルに日経センターが予測する経常利益と名目GDPの伸び率を当てはめ、予測値を算出している。テレビ、新聞、雑誌、ラジオのマス4媒体や、交通、折り込み・ダイレクトメール、SP・PR・催事企画、インターネットの媒体ごとの伸び率は広告費全体の動きから予測している。


 


※「会員専用ページ」で、四半期ごとの媒体別広告費の伸び率や「広研・センターモデル」のベースとなる景気予測を盛り込んだ詳細版(PDFファイル)を公開しました。