調査・研究

2021年度の広告費予測/概要版【詳細版は会員専用ページで公開】

2021-02-07 自主調査 コロナ禍の反動で5.3%増 ネットとテレビがけん引

 日経広告研究所は2021年度の広告費が前年度に比べて5.3%増えるという予測をまとめた。新型コロナウイルスの感染拡大が影響し、20年度の広告費は16.0%減と大幅に落ち込む見通し。パンデミック(世界的大流行)の収束時期は不透明だが、21年度はマクロ景気の好転に伴って企業活動が活発となり、前年度に大きく落ち込んだ広告需要が反動で増加するとみている。媒体別では、インターネット広告とテレビ広告が広告費全体の伸びをけん引する。


 同研究所は毎年2月に翌年度の広告費予測をまとめている。経済産業省が毎月発表する「特定サービス産業動態統計調査」の広告業売上高を広告費のデータとして使い、四半期ベースで広告費を予測している。今回は21年4-6月期~22年1-3月期を予測期間とした。



20年度は16.0%減と減少率最大に


 特定サービス産業動態統計調査でこれまで最大の減少率を記録したのは、リーマン危機後の09年度の13.1%減だった。20年度の16%減はこれよりも大きくなる。ただ、リーマン危機時は08年度にも9.9%減少しており、単年度だけでは比較できない面がある。


 20年度の広告費が大きなマイナスとなるのは、年度前半の落ち込みが響くため。緊急事態宣言が発令された20年4~6月に24.4%減、7~9月期に19.7%減と鋭角的に落ち込んだ。経済活動の再開が本格化した10~12月期は持ち直し傾向が表れ、減少率は13.0%に縮まる見通し。今年に入って再び緊急事態宣言が発令され、21年1~3月期の景気は弱含むとの見方もでている。ただ、昨年の緊急事態宣言時のような極端な悪化を予想する見方は少なく、長期化しなければ広告費のマイナスが縮小する流れは続くとみられる。


 民間調査機関の予測では、コロナウイルスワクチンの普及を前提に21年度は3%台の経済成長が見込まれる。5%台半ばの20年度のマイナス成長から経済環境は一変する。企業収益が改善し、広告活動も積極化する。特に21年度前半の広告費は、前年度に急減した水準との比較となるため、反動により高い伸びが期待できる。21年度の5.3%の伸びは04年度(5.5%)以来の高さとなる。ただ、19年度と比べると金額では9割弱の水準にとどまる。



 媒体別にみると、テレビ広告は20年度に13.2%減少する。ただ、前半の22.1%減と比べ後半は4.5%減と急速に持ち直している。4、5月に大きく落ち込んだスポット広告が、10~12月期はプラスの伸びに転換した。コロナ下でテレビ視聴時間が増え、媒体価値が高まったという調査結果もある。マスコミ4媒体の中で東京五輪開催の影響が最も大きく、予定通り開かれれば広告費を底上げする要因となる。21年度は5.0%の高い伸びを見込む。


 20年度のラジオ広告はプロ野球開幕の遅れによりタイム広告が減少、イベントの相次ぐ中止により告知のためのスポット広告が減少した。21年度はスポーツ試合やイベントが例年通り行われることを前提に1.0%増を見込む。


 新聞広告は20年度に18.0%の大幅減となった後、21年度は3.0%増える見通し。コロナの感染拡大が直撃した交通・レジャーが新聞広告の業種別金額のトップを占めるが、21年度は徐々に減少率が改善するとみられる。情報・通信や自動車などの出稿増も期待される。


 雑誌広告は20年度に34.2%減り、媒体別で最大の減少率となる。出版科学研究所によると、20年の週刊誌と月刊誌定期誌の販売金額はともに約9%減り、なかなか下げ止まらない。出版社が紙媒体からデジタル媒体に経営の重点を移していることも紙の雑誌広告が大幅に減る要因となる。ただ、コロナ下でもティーン女性誌向け広告が1~6月に健闘するなど、紙媒体を選好する広告主も存在する。こうした需要を掘り起こし、21年度は2.5%増と予想する。



インターネットは13.1%増と成長持続


 インターネット広告は20年度に0.5%増える見込みで、媒体別では唯一プラスの伸びを確保する。インターネット広告もコロナの影響を受け、20年4~6月期は14.2%減、7~9月期は6.8%減と大幅なマイナスを余儀なくされた。しかし、10月からはプラスに転じ、年度後半は9.9%増と2ケタ近い伸びが見込まれる。


 21年度は13.1%増と好調を持続する。電子商取引(EC)やゲームなど、巣ごもり需要をとらえて成長している業態は、インターネット広告と親和性が高く、コロナ下でも積極的に広告を出稿している。こうした傾向が新常態として定着し、パンデミックが収束しても継続するとの見方が多い。


 インターネット広告はテレビ広告などと比べ予算が少なくて済み、広告効果が比較的測りやすいという点も注目される。景況感の改善を受け、21年度は広告予算を増やす企業が多いとみられる。しかし20年度と比べれば増えるが、19年度と比べればマイナスという状況が大半と考えられる。コロナ感染の先行きに不透明感が残る中、潤沢とはいえない予算でキャンペーンに取り組む企業は、インターネット広告を選択する場合が多くなると予想される。


 交通広告は20年度に28.4%減と落ち込む。他媒体は年度前半に大きく落ち込んでも、後半には減少率を縮小しているが、交通広告は持ち直しの気配がなかなかみえない。コロナの影響で乗員人数が低迷し、広告の接触機会が減っていることが最大の要因。広告需要を掘り起こすため、期間限定で交通広告の単価を引き下げた影響もみられる。ただ、単価引き下げを機に広告主は徐々に広がりをみせているという。21年度は1.0%増を見込む。


 折り込み・ダイレクトメールは20年4~6月期に51.6%という大幅な落ち込みを記録したが、秋以降は急速に持ち直した。折り込み枚数は昨年12月に前年の9割まで持ち直した。20年度は26.8%減るが、21年度は5.0%のプラスを見込む。折り込みは業績好調なスーパーなどの流通業が全体をけん引する。DMはインターネットと連動させた取り組みも広がり、安定した伸びが期待できる。


 予測値は日経広告研究所と日本経済研究センターが共同で開発した「広研・センターモデル」を使って算出している。広告費は国内景気と相関すると仮定し、財務省発表の「法人企業統計」の経常利益と内閣府発表の名目国内総生産(GDP)の2つを説明変数に選び、このモデルに日経センターが予測する経常利益と名目GDPの伸び率を当てはめ、予測値を算出している。テレビ、新聞、雑誌、ラジオのマス4媒体や、交通、折り込み・ダイレクトメール、インターネットの媒体ごとの伸び率は広告費全体の動きから予測している。


※「会員専用ページ」で、四半期ごとの媒体別広告費の伸び率や「広研・センターモデル」のベースとなる景気予測を盛り込んだ詳細版(PDFファイル)を近日中に公開します。